下着姿で君に抱っこされる緊張感と、触れる肌から伝わる生々しい君の体温
大学生の頃、なぜか中学時代の同級生たちと集まることが多かった。どこにそんなお金があったんだろうって思うくらいに飲み歩いて、カラオケして。ドライブしては海に行って。
そうやって、大人と子供の狭間にある危うい時間を夜な夜な過ごしてた。
私のように大学生もいれば社会人もいた。浪人生も、フリーターも、ニートも。
でも、集まっているときはそれぞれの肩書きなんてどうでもよくて、いつも中学のときの自分とみんながそこにいた。
だから、久しぶりに会った君が大人っぽくなっていて、少し動揺した。
私は集まりにいつも参加していたけど、君は最初に来たっきり来なくなってた。1年ぶりの君はなんだか体ががっちりしてて、ヒゲなんて生やしてて、妙に色気があって大人の男って感じだった。
私にはずっと付き合ってた彼氏がいて、でも最近別れて、この日はその寂しさから逃れたくていつもよりお酒を飲んだ。
「どしたん、そんな酒強くなかっただろ」
君は私の隣に座って、ぬるくなった私のビールに手を伸ばした。そのまま自分の口にもっていきゴクリと飲む。
「ぬっる。飲めねぇなら俺飲んでやるから新しいの頼めよ」
「いいの。今日は飲みたい気分なんだからそれもちゃんと飲むの」
「おー、思春期はいろいろ大変だな」
「すぐそうやって子供扱いするー」
中学の頃。君はいつも私を子供扱いして、からかって、くだらないことでじゃれあって、そうやって誰よりも近い距離にいた。
それは本当の兄弟みたいだったらしく、誰もうちらの関係を怪しまなかったし、噂も立たなかったし、もちろん付き合うこともなかった。
「このまま海行こうぜ」
仲間の一人がそう提案して、居酒屋を出てからノンアルコール組の車それぞれにわかれて夜の海水浴場へ向かった。
真っ暗なはずの海水浴場は、もう少しでまん丸になりそうな月の光に照らされてむしろ明るいくらいだった。
波打ち際でばしゃばしゃやってるうちに、男たちは服のまま海にダイブしはじめた。しまいには脱いでパンツ一丁で泳ぎ始める。
「男はいいなぁー」
女性陣が次々に声をあげると「脱いじゃえよ!」と男性陣が騒ぎ出す。
「別に水着とかわんねぇだろ!」
「かわるし!全然違うし!」
「誰もオメェらの下着見たって勃たねぇよ!」
「ちょっとなにそれ!逆に失礼じゃん」
隣で、女友達の一人がおもむろに脱ぎ始めた。
「ちょっと、マジ」
「マジマジ。楽しそうじゃん」
あんたも脱いじゃえ、水着だと思ってー。そう言って下着姿になった友達は男性陣のいる海の中へと走っていった。
「ひゃっほー!気持ちいいー!」
みんなに海水をばしゃりとかけられたかと思うと、男の一人が友達を抱っこして持ち上げ、軽く海へと放り込んだ。
「ちょっとー!メイク落ちんじゃん!」
そう叫びながらも楽しそうに笑う友達を、今度は君がお姫様抱っこしてそのまま海へ放り込む。
「だーからー!メイク落ちんじゃんって!」
「目の周りやっべーお前!」
濃紺のレースの下着をつけている友達とはしゃぐ君を見ながら、私はノースリーブのシャツに手をかけた。こんな日に限って真っ赤なブラジャーとショーツで恥ずかしかったけど、服を脱いでいく手に迷いはなかった。
ねぇ、気づいてた?
私、中学の頃、ずっと好きだったんだよ。
下着姿になり、海の中の君に近づいていく。
「お、投げ飛ばされに来たか!」
さっきの友達のように、君は私をお姫様抱っこして海へ放り込んだ。私は子供のように「もう一回!」とおねだりして、何度も何度もお姫様抱っこしてもらっては海へ放り込まれる。
「お前全然かわんねーなぁ、マジで子供みてぇ」
君は楽しそうに笑いながら、海の中の私に手をのばして起こしてくれる。
思わず抱きついてしまいたい衝動にかられた。
でも、そんなこと、絶対にできない。
昔も今も私たちはただの友達で、それは兄弟のようなもので、私は最近まで別の人が好きで、君は私の下着姿になんか全然動揺してなくて、めっちゃ楽しそうに私を投げ飛ばして、そうやって今も昔のように二人で笑いあってる。
下着姿の私にちょっとは欲情してくれてもいいのに。そうしたら、寂しさを少しでも忘れられるのに。そう思うけど、君と私は、そんなんじゃないから。
その場のノリで救いを求めるような、簡単に汚してもいいような君と私じゃないから。
だから。
昔好きだった気持ちと、急に大人の男になった君と、下着姿で君の腕に抱っこされる緊張感と、触れる肌から伝わる生々しい君の体温。
せめて少しだけ、よりかからせてほしい。
「あいつら、あいかわらず兄弟みたいだな」
仲間の言葉は聞こえないフリをして、私は君に言う。
「ねぇ、もう一回して?」
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